2019年の“中間”選挙~上院議員
副会頭・専務理事 藤井 伸夫
2019年の5月13日に投票が予定されている選挙だが、前々回辺りから“中間選挙”というアメリカ風の呼び方に変わってきた。内容は、正副大統領が選挙の対象になっていないだけで、上院議員の半数・下院議員全員・州知事(正副)・州議会議員・市町長(正副)・市町議会議員が一斉に改選される「3年毎の定例行事」である。日本で言うと衆参両院議員選挙と統一地方選挙が纏めて行なわれるもので、全国が選挙一色に染まることになる。
選挙キャンペーン期間は結構長く、全国区の上院議員・下院の比例代表団体が2月12日から5月11日までの3ヶ月間、その他の地方区を対象とするのは3月29日からの1.5ヶ月間となっている。キャンペーン終盤になると運動にも熱が入り、メイン道路を宣伝カーが走り回り、周辺の電柱・壁・住居にはポスターが貼りめぐらされ、支援集会などがあると近くでは交通マヒも発生する。また、暴力事件発生の危険箇所としての“ホット・スポット“が警察・選管から公表され、最悪は死者も発生する事態もあるので近づかないようにしたい。そして5月11日(土)のキャンペーン最終日が終わると、翌日は”熱さまし“で休養となり月曜日の13日が投票日になる。投票日は、当然休日に指定されるので留意されたい。私的生活では、投票日とその前日はアルコール提供禁止になるので”家飲み“になる。
さて、今回選挙のハイライトは「上院議員選挙」で、既に予想される立候補者と順位予測も数回公表されているが、その原点まで含めて整理しておくと次のようになる。
1. 上院議員とは
全国で24人だけという限定された上院議員は、アメリカ植民地時代のコモンウェルス政府の時代から同じ人数で、“政界のトップ・クラス”を象徴している。更に、その地位は「次期大統領」という最高ポストを覗う地位でもあり、得票数・順位はその可能性を計るバロメーターでもある。
政界の順当なコースで言うと、有象無象のひしめく市町長で選挙の経験を積んだ後、地方政界から中央政界へと向かうが、その最初の関門が300人弱の大所帯である下院議員となる。その次に下院議員として実績・人気を高めて目指すのが、全国区である上院議員の座という事になる。ここまで来ると、あとに残るのは正副大統領の2ポストだけという事になる。この順当なコースを辿った歴代大統領には、マルコスやエストラーダなどがいる。
一般的には、「大統領は上院議員から」というのがフィリピン政界の常識で、歴代大統領は少なくとも上院議員の経験を持つものが大多数である。
2.ポイントは
最大の課題は得票数である。当選するには、全国から少なくとも15百万票以上の得票が必要で、地域・階層・年令・性別で偏りが出るのは致命的で宗教も大きな要素になる。国民の80%を占めるカトリック教会は重要であり、嫌われたらオシマイになるし、5%のイスラムに対する配慮も必要である。
“ツボ”は投票方式が連記制である事で、要するに仲間を増やして「あの人に投票するなら、この人にも投票して!」として票を集める方法が手っ取り早い。一般的には「大統領・与党など組織の後ろ盾を得る」が普通の方法で、加えて「個人としての名声・魅力」が補完する事になる。独立候補で戦う場合が、圧倒的に不利になるのは言うまでも無い。一名単記で15百万票を集めるのは大変だが、12名連記となっていれば票を集め易く、差が広がらない結果になるのは自明の事である。
この事を示すように、前回の上院選の結果は次の通りだった。トップ当選者のドリロンが18.6百万票で、最下位の第12位当選者のデリマが14.1百万票だった。また、フィリピン人で知らぬ人はいないボクシングの帝王であるパキアオでも、16.1百万票で中位の第7位当選でしか無かった。
3.現在の上院議員の状況
定数24人中、昨年外務大臣に就任したカエターノ(弟)が抜けた為に、23人となっている。この内訳は次の通りとなっている。
<非改選>(当選後3年しか経過していない)
与党系~ソット、ラクソン、ゴードン、ズビリ、パキアオ、ガチャリアン、レクト、ビラヌエバ 計8名
野 党~ドリロン、パンギリナン、デリマ、ホンティベロス 計4名
<再選目指す>
与党系~ピメンテル、アンガラ、ビナイ、エヘルシト、ポー、ビリアール 計6名
野 党~アキノ
<再選不可>(2期12年終了者で今回はお休み!)
与党系~エスクデロ、ホナサン、レガルダ 計3名
野 党~トリリアネス
4.復帰組では
「現役・再選組」が強いのは言うまでも無いが、前回の13年上院選で2期12年を終了し再選不可となって“一回休み”になっていた「復帰組」も経験がある為に強力である。
復帰組の6人中、死亡したサンチャゴ女史を除く5人全員が立候補を表明して届出を済ませているが、驚くのはエンリレである。“ポーク・バレル”事件で逮捕されたが高齢を理由に保釈が認められた経緯があり、今回選挙で当選すれば任期を終えた時点で100歳に到達する事になる!
次に取り上げるのは境遇・経歴も似ていて本人同士も友人であるエストラーダとレビリアの二人である。俳優出身・父が有名人という二人だが、“ポーク・バレル”事件で逮捕されたのは上記のエンリレと同じである。本人ら自身も映画俳優という絶対的な知名度の高さがある。エストラーダは言わずと知れたエストラーダ元大統領の(正妻の)子息である。レビリアは往年の俳優を父に持ち、妻は美人女優のラニー・メルカドでカビテ州バコール市長であり、弟のストライク・レビリアは下院議員である。
4人目は、前の二人と同様に映画俳優出身で知名度の高いラピッドである。こちらも高位で当選する訳では無いが、いつも当選ラインをクリアしてくる不思議な存在で今回も当選する可能性はある。
5人目は、カエターノ一族のピア・カエターノで、上院議長を目前にしながら病没したカエターノ元上院議員を父に持ち、弟は下院議員を経て上院議員となり任期半ばでドゥテルテ大統領から外務大臣に抜擢されている。当人は、下院議員で副議長を務めていたが、今回は上院選に出馬予定で代わりに弟が外務大臣を辞めて下院選に出馬する。背の高い美人女性で、スポーツ・ウーマンとしても有名であり当選の確率は高い。
更に、上院議員・閣僚を歴任し、16年大統領選で第二位となったロハスも“復帰組”の勘定に入れておきたい。10年の大統領選の際にはLP(自由党)の党首でありながら、選挙直前のコーリー・アキノ元大統領の死去によって、“弔い選挙”でより勝利の確実なアキノに大統領候補を譲って副大統領選に回ったが、一敗地にまみれた経緯がある。
5.予想は
大胆に予想してみると、まず現職7人の再選は固そう。復帰組ではピア・カエターノが抜けている。他の復帰組は、“もうエエやんか”と言うのが正直なところ。新人では、与党=大統領が強力に推すゴとトレンティーノ、マルコス一族のアイミーが強そうで、これで11人となってしまう。
残る議席は1つで、復帰組と新人候補が争うことになりそうだが、いずれにせよ「現職・元の経験者が強い」という基調に変わりは無く、新味の無い選挙になりそう。
(執筆:2018年11月)
以 上